事務所通信
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経営について考える その2 [経営について]

2008-05-24

 我々税理士がお客様にそして潜在顧客へのアプロ-チとして用いるキ?ワ?ドは時代とともに変遷してきました。
以前は法人税では、会社設立の最大のメリットを節税に置き、個人事業からの法人成りを強く勧めてきました。
 私が会計事務所に就職した昭和50年代は、高度経済成長の波に最も乗っていた時代であり、節税目的を主眼とした法人設立が相次ぎました。
 私も月次監査の時、得意先の社長に会社設立の理由を尋ねた際、一番多かった答えが「節税」でした。失礼ながら個人企業と同様でありながら、法人組織を採用することによって、税法での有利な側面を最大限に享受していたのです。そして会社設立の最大の目的は、会社組織を上手に活用して、最終的に個人資産の充実を図ることでした。 
 逆に業務の拡大、会社の業績拡大を目指す、といういわば会社設立の本来の目的で会社を設立した顧問先の方が圧倒的に少なかったのは意外でした。
 個人資産の蓄積そして充実自体を私は全く否定するつもりはありませんが、それが会社設立の本来の目的と言われると大変戸惑ってしまいました。
 平成18年4月1日より新会社法が施行され、最低資本金制度が全面的に見直され、資本金1円から会社が設立できるようになりました。その趣旨は言うまでもなく起業化の促進です。
 しかし国税庁は前にも触れましたように、会社設立がやりやすくなった一方で、節税目的に重点を置いた会社の設立を極力排除しようという趣旨で、あの同族会社の役員報酬の一部損金不算入制度をぶつけてきました。
 この不景気というか超低成長の時代、会社の存続が非常に厳しくなっている昨今、会社設立の主な動機は、節税ではなくなってきています。これは大変喜ばしい傾向です。
 本当の起業家が、自らの信念に基づいて会社を設立し、会社の業績拡大を図る。それを我々税理士が経営計画書策定のお手伝い、資金繰り表の作成など主に財務面で会社の安定的な成長のバックアップをしていく、これが本来あるべき経営の姿ではないかと思うのです。
 会社の安定的な成長のためには当然黒字経営を続けていくことが必須です。そしてもうひとつの重要な要素は経営基盤の安定です。ということは安定した株主の下、揺さぶられない経営基盤でなければなりません。
 この辺りが同族経営を罪悪視する税法に疑問を感じるところなのです。
会社経営が一段と難しくなり、そのかじ取りが厳しくなっている今の状況では、節税を主眼とする会社は一部を除いて生き残れなくなっている時代だからこそ、同族経営でなければならない、と私は思うのです。
 だって最終的に頼りになるのは他人ではなく身内でしょう。
確かに経済学では、資本と経営の分離を学びますし、それが資本主義の根幹だということも分かります。
 しかし現実はどうか?一部の大手企業を除いて大半の中小、零細企業は日々の経営で四苦八苦の状態です。
この上、会社の資本構成をオ?プンにし、投機的な目的による株主を入れたらどうなりますか?
 やれ少し儲かっているから配当をしろだの、やれ経営者のやり方に問題があるなど、株主対策で頭を悩まされ、とても100%前を向いて経営に没頭できなくなるのではないでしょうか?
 私も課税当局の意図している、会社内部でのチェック機能、すなわち内部牽制システムを構築させたい気持ちも十分分かります。しかしこの生きるか死ぬかの厳しい時代に、あまり同族色を薄めようとするとかえって中小、零細企業の体力を衰えさせることになりはしないか、とても心配です。
 そういう意味から、同族会社をタ?ゲットにした各種税制改正に難色を示しているのです。
時代が高度経済成長下にあり、多くの企業がわが世の春を満喫し浮かれているのなら、いくらでも厳しく規制すればよいと思いますが、やっとのことで耐え忍んでいる中小、零細企業を今このタイミングで痛めつける必要もないのではないでしょうか。
 それよりも私が前にも触れましたが、今こそ北風ではなく、太陽の政策をとっていただきたい。
そして企業が活力を持って安定的に成長してゆけるよう、国ももっと強力にバックアップする政策を打ち出して欲しいと切望しています。
 少なくとも税理士は、節税を主眼とした助言から安定成長へのお手伝いに、その力点をシフトしています。