事務所通信
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農家、農業のあり方についてその10 [農業について考える]

2008-06-27

 次に税制面から農家、農業のあり方について考えてみます。
 私の住む横浜市緑区は,言わば都市近郊農家であり、土地の価格も高いので、農地を保全していくためにはどうしても納税猶予制度を活用しなければなりません。
 農地にかかる納税猶予制度は、贈与税と相続税とがあるのですが、概略説明しますと次のようになります。
農地は本来農作物を生育する生産の場であるべきなのですが、この辺りの農地は流通性もあります。その理由としては買い手側で単に隣地である農地を買って農地の拡大を図るといった理由から、収用事業(道路拡張事業や線引地域の見直しによる市街化区域への編入など)に対する思惑など様々な理由があるようです。
 また農地が市街化区域内に存する場合には、そうした区域は宅地としての利用を予定している区域ですから、農地であってもすぐに宅地に転用できるので、むしろ宅地としての流通性を前提とした土地価格となります。
 このように売買、流通を前提とした価格すなわち時価と、もう一つ純粋に生産の場としての農地の価格すなわち農業投資価格と、農地には二つの価格が存在することになります。
 農地を所有している農業従事者が死亡して相続が発生した場合、相続税の財産評価方法は農地に対しても時価計算することになっています。ただ時価といっても実際には国税庁の発表している財産評価基本通達の定めによって計算することにはなりますが、一応流通を前提とした価格によって計算します。
 その上で、農業後継者がもし先代の農業を承継し農家を続けていく意思があれば、農地を生産の場とした場合価格すなわち農業投資価格を計算します。
 そして先に計算した時価すなわち相続税評価額と、農業投資価格との差額に対応する相続税を一定期間猶予する、そしてその期間が満了したあかつきには、最終的に猶予していた相続税額を免除する制度です。
 ですから一旦は農地を時価計算するのですが、農地を永続して維持し耕作することによって結果的に,農地の評価は、本来の生産の場としての農業投資価格で評価されることになるのです。
 ただ猶予期間がきわめて長く、市街化調整区域内農地にあっては20年間、市街化区域内農地で生産緑地に指定されている農地にあっては死ぬまでの終身営農を要求されます。
 このように農地は営農を条件に、最終的には農業投資価格での評価となる結果、相続税が殆どかからないことになるとは言っても、最低20年間または死ぬまで耕作を要件とされます。
 さらにその上、条件違反すなわち農地以外への転用は勿論のこと、体力の衰えなどにより農地を荒らしてしまっても農地としての維持に違反しているとされた場合には、猶予された相続税は取り消されその上で何と原則6.6%の利子税が上乗せされるのですから、違反によるペナルティは極めて重く、現在の納税猶予制度は大変厳しい制度となっています。
 それでも私が関与させて頂いた農家の方々は殆ど例外なく,相続税について農地の納税猶予制度を選択されました。やはり先代の遺した農地を何がなんでも維持したい、農地を残したいという決意の表われです。