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相続税の大改正に思う その2 [相続税の大改正について]

2008-09-11

 相続税の課税方式の変遷については、次のように何度か両方式を行きつ戻りつしてきました。
 明治38年に導入時は遺産課税方式でありましたが、昭和25年においていわゆるシャウプ勧告により、遺産取得課税方式に転換しました。しかし当時は明治以来の旧相続税制度、つまり家督相続制度の考え方が広く普及していたので、個人主義的考え方による遺産取得課税方式はなじまない、として昭和33年に再び遺産課税方式に戻して、現在に至っています。

 このように変遷を繰り返してきた相続課税方式ですが、なぜ今の段階で遺産取得課税方式に転換しなければならないのでしょうか。
 国税庁の考えは次のとおりです。
 「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」が平成20年5月に成立しましたが、これを受けて事業の承継者を対象とした、取引相場のない株式等にかかる相続税の納税猶予制度を創設することになりました。
 この新設されるであろう相続税の納税猶予制度は、簡単に言えば承継した会社に対する非上場株式の課税価格の 80%に対応する相続税の納税を猶予するというものです。
 これは現行の農地に対する相続税の納税猶予制度と考え方は全く同じです。
 すなわち、非上場株式の評価については財産評価基本通達によって評価するけれども、一定の要件(社員の8割以上を5年間継続雇用するなど)を満たす事業承継については、評価額の80%に対応する相続税額を猶予する、つまり一定の要件を満たせば、その事業承継した株式については、通常の相続税評価額の20%に対応する相続税だけ納付すればよい、という制度です。
 これ自体は、中小企業に対する事業承継を円滑ならしむる制度ですので、大いに歓迎すべき制度なのですが、その後が厳しい。
 この納税猶予制度による相続税額軽減効果が、事業後継者のみならず他の相続人にまで及ぶのがまずい、と言うのです。

 確かに現行の遺産課税方式では、いったん故人の相続財産にかかる相続税を計算しますから、納税猶予制度の適用により、課税相続財産そのものが圧縮されれば、故人にかかる相続税も減額され、その効果は全相続人に及ぶということになります。
 そして説例を示して、事業承継者以外の相続人等に対する相続税額負担軽減効果及び事業後継者が事業継続要件を満たさなくなった場合において、事業承継者以外の相続人等にも事後的に相続税の負担を強いることになる悪影響についてこと細かく説明しています。