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相続税の大改正に思う その3 [相続税の大改正について]

2008-09-12

 この説明自体には誤りもなく、全く説明の通りでありますが、私はこの説明は相続の実態を十分に反映していない、いわば机上の問題点であることを指摘したいと思います。
 つまり、納税猶予が取り消された場合、それにより増加する相続税額が例え事業後継者、農業後継者のみならず、相続人全員に波及するとは言っても、そうして増加した相続税を実際に負担するのは、各相続人ではなく、事業承継者なり農業後継者である、ということです。
 それでは贈与になってしまうのではないか、との指摘を受けるかとは思いますが、私は実態として申し上げているのであって、本家で納税猶予の取り消しを受けた場合、本家がそれによって増える相続税を負担するのは、本家の人間としては当たり前と思っている方の方が多いと思います。

 ですから、理論的にはというか建前としては、後継者以外の相続人が納税猶予の影響を受けるのは好ましいことでないことは事実ですが、実態として後継者つまり本家が実質的に、当初申告の相続税額を負担し、なおかつ猶予取り消しにより増加する相続税額を負担している以上、言わば本家の側での負担に帰結するのであれば、この事業承継税制の創設を機に、相続税の課税方式自体を抜本的に見直すまでの必要性を私は感じないのですが、皆さん如何お考えでしょうか。

 奇しくも、私が受講した研修のある講師の先生は次のように言っていました。
「相続税の改正は最初に増税ありきなんですよね。それも先祖代々からの遺産を営々として受け継いできた地主は格好のターゲットにされています。」
ですからこの相続税の大改正は、事業承継税制の創設という機に乗じて、今までやりたかった大改正を一気呵成にやってしまおう、という国税庁の深謀遠慮が大いに働いているのではないか、と私は強く思っています。

 この相続税課税方式の変更は何度も言いますが、相続税の課税根拠に対する考え方を180度転換する大改革であり、それを他のことにかこつけて変えてしまおう、というやり方が私にはとても納得がいきません。
 昭和33年から50年も現行の相続税課税方式を続けてきて、現行制度に対する不備が大きく指摘されてきたのならいざ知らず、遺産分割のやり方で相続税額が左右されない、という現行制度の大きな長所を消してまで、今度の遺産取得課税方式に変更する理由、必要性が分かりません。
 相続税が一部の富裕層のみに課税されるので、課税対象者層を広げるという考え方は、十分に理解できるものですが、まさか課税方式という相続に対する考え方を根底から覆えそうとする大改革は、そんなに軽率にやるべきことであってはならない、と私は思うのですが如何でしょうか。