事務所通信
税務情報だけでなく、他士業の先生方からも有益な情報を頂戴し、
法律・労務人事・不動産・社会保険など幅広い情報をタイムリーに発信しています。
事務所通信 > 税制改正について考える その1 [税制改正についての私見]

税制改正について考える その1 [税制改正についての私見]

2008-04-30

 最近の税務研修での関心事は、法人税については同族会社役員報酬の一部損金不算入制度、資産税関係では事業承継税制の今後について、です。
 同族会社役員(主宰役員ですからほぼ社長ということになります。)に対する役員報酬が一部損金つまり経費にならない、あの悪名高き制度です。役員報酬に対する定期同額給与制度と並んで、同族会社の役員を狙い撃ちにした感の強いこのところの税法改正です。
 この2大役員報酬改正の規定の趣旨は何といっても、恣意性つまり社長の考え方次第で報酬を上下できる、いわば利益操作ができる余地を出来るだけ排除しようとしたものです。国税庁のこうした考えも分からないわけではありません。何故なら法人の60%以上が赤字法人であるのに、倒産している会社はごく僅かだからです。なぜ赤字法人でも存続できるかと言えば、債務超過であってもその債務が″有る時払いの催促なし″だからです。つまり社長の役員報酬が払いきれないので、その残高が借入金なり未払金として積み上がっている状態であって、この債務はよほど資金繰りに余裕がなければ返済されないのです。税務当局から見れば払いきれないほど高い役員報酬を設定したために赤字になっているのであって、そんな状態の決算書は、言わば法人税逃れで作為的に作られたものであり、何とか税金を徴収する術はないだろうか思案に暮れていたのでしょう。
 それが、起業を促すべく作られた最低資本金撤廃に伴い、大量の法人成り(つまり個人事業主がその実態は何ら変わることなく法人組織に変更する)が見込まれるこのタイミングこそ、今までのウサを晴らす千戴一遇のチャンスと考えたのでしょう、電光石火のごとくあれよあれよと言う間に法律を作り通してしまいました。17年暮れのことです。
 この法律改正は極秘に練られたものらしく、税理士会が政治活動をすべく別組織で作った税政連でも全く情報はキャツチしていなかったようです。国税庁とすれば少しでも情報が洩れれば税理士会やら法人会から矢のような批判が噴出して法律自体が潰されるか、あるいは大幅修正を余儀なくされて、法律の制定趣旨が大幅にトーンダウンしてしまうことを恐れたための隠密行動と思われます。
 しかしヤミ討ちのようなやり方は、2年前の15年暮れにあった長期保有土地の譲渡損失の原則損益通算切り捨ての措置に続いて2回目でしたから、税理士会も慌てたというより、バカにされた感が強く当然のごとく大反発の声が上がりました。しかし国税庁も通してしまえば、大勢は決したのだから慌てることはない、という感じで余裕しゃくしゃくでしょう。
 一般の税理士の方は今回のこうした騒動をどのように捉えているでしょうか?
税理士の無力さを感じている方が殆どではないでしょうか。作られた法律を清々粛々と執行していく、何か悲しくありません?誰しもが納得のゆく良心的な法律ならばいざ知らず、十分というより殆ど全く議論もされない法律がいつの間にか施行され、その法律にも強制力がある限り従わなければならない、お客様つまり納税者に説得し、ご納得していただかなければならない、納税者が目の前にいる言わば最前線にいる私たち税理士の立場って一体何なのでしょうか?
 本当に私たちが納税者と一番近い所にいて、真に納税者の苦しみや気持ちが分かるのであれば、どうしてそうした声が法律に反映されないのでしょうか。
 私は今回の同族会社役員報酬の一部損金不算入制度に対する当局側の考えには一理も二理もあると思います。しかし法律の成立過程があまりにもひどい。税理士を全く無視している、それはひいては納税者を無視している、ということではないでしょうか。
 租税立法主義を採るわが国では、法律=拘束力です。それだけ国民に影響力を与える法律ですから十分な審議過程を経て策定されなければならない、これは当たり前のことではないでしょうか?それが税理士会や法人会に情報を流したら潰される、として私たちを遠ざけるということは私たちを全く信用していないということではないでしょうか。私たち税理士会を納税者を擁護する利益団体とでも思っているのでしょうか。
 この法律のことを考えるといつもついつい興奮してしまいます。何もできない気弱な一市民税理士のクセについつい生意気な事を書きつづってしまいました。お見苦しい点深くお詫びします。
 ただ、同族会社の役員報酬に対しては自分として一つの考えがありますので、次回申し述べたいと思います。次回は冷静に書きたいと思います。