事務所通信
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税制改正について考える その2 [税制改正についての私見]

2008-05-01

 前回同族会社の役員報酬をターゲットにした2つの法律改正があり、大きな反響を呼んでいることを述べました。  その一つ役員報酬の一部損金不算入制度は、本来サラリ?マン(一般的には使用人)に対して適用されるべき概算経費(給与所得控除と呼んでいます)を、個人事業主が法人成りした会社の役員に適用することは、言わば架空経費の計上にあたるので、その法律の穴つまり不備を埋めた、というのがその制定の趣旨です。                  つまり実態が個人の時と変わらないにも拘わらず、所得の種類が事業所得から給与所得へ変更されることにより、所得税において課税所得が給与所得控除分だけ減ってしまう。この穴をそのままにして置く訳にもいかない、ということです。そして個人事業から法人成りした会社の大部分は、いわゆるオ?ナ?会社といわれる資本と経営の分離していない同族会社である、だから今回の改正は十分正当性があるということでしょう。ですからこの制度の適用を受けないようにするためには、もっと同族色を薄めてもっとオープンな会社になりなさい、社長の意のままに動く恣意性の強い会社から脱皮して下さい、とこの法律は促しているのです。
 とここまでは国税庁のおっしゃる考えは十分理解できます。
ただ難を言わせてもらえば、それならなぜ社長の年間報酬と会社の利益の合計が1600万円という外形標準を設けたのでしょう?(法律設立当初は800万円であったのが、わずか1年で倍の金額に改定されました。)おそらく少額不追及という趣旨でしょう。しかしこれが却って法律の制定趣旨を大変に分かりにくくしている、というより逆行しているように私には思えてなりません。
 何故か?それは今回の法律がターゲットとしている会社以外の方にその矛先が向かってしまうためです。つまり社長の役員報酬プラス会社の利益の合計が年間1600万円以上の会社は、数人以上の社員を雇用しているある程度の規模を持った会社であることが多く、この法律の予定している社長と奥さんだけの零細企業はむしろこの少額不追及の規定により、対象から外れるケ?スが多いと思われます。
 本来のこの法律の趣旨は何度も言いますが、個人から法人への組織組み換えによる税法の不備を埋めようというものですから、その最大のターゲットである零細企業に法律の手が及ばず、むしろ新法の施行以前から事業を営んでいる中小企業に矛先が向かうのは皮肉な結果です。
 身内以外の社員を何人も雇用している会社は、雇用を創出している点で公共、公益的な存在であると私は思います。よってこうした会社への増税は到底納得できません。
 ですから適用除外としての外形的な標準は現行の1600万円基準ではなく、親族以外の社員を一定数以上雇用しているとか、親族以外の社員への給与支払総額が一定額以上であるとか、一定以上の雇用創出力を持っている会社を適用除外とする規定にすることが、この法律の趣旨に一番合致するのではないでしょうか。
 この制度は考え方は十分理解できるものの、見切り発車的に作られたもので、それこそまだまだ不備があるように思います。もっと議論を重ねてよりよい法律に改正していってもらいたいと思います。勿論税理士会がその時十分なオピニオンリ?ダ?として機能してくれることを切望しています。