事務所通信
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税制改正について考える その3 [税制改正についての私見]

2008-05-02

 もう一つの役員報酬に対する改正、それが定期同額給与と事前確定届出給与制度の新設です。
先の同族会社主宰役員に対する報酬一部損金不算入制度と同時期にできた法律です。        
 この2つの法律を比較すると、一部損金不算入制度の方に関心というより批判が集中しているきらいはありますが、この定期同額給与もその効果、反響はすさまじいものがあります。
 定期同額給与制度は、利益操作の主原因となっている(と国税庁が認識している)役員報酬の改定時期を、前年度決算報告の時期に限定させることによって利益操作を実質的にシャットアウトすることを狙ったものです。また事前確定届出給与制度は定期同額給与制度を補完するするもので、定期でないイレギュラ?な役員報酬及び役員賞与の支給については、事前に税務署に対して届け出があった場合にのみ損金として認めるととするもので、やはり期の途中での恣意性による役員報酬の支給を完全にシャットアウトする制度です。
 前の一部損金不算入制度と合わせてこの2つの法律により、国税庁としては長年の懸案事項として利益操作の温床となっていた同族会社の役員報酬の改定について徹底的にメスを入れ、ほぼ根絶できるという自信というか安堵感を持っていることと思います。
 この法律改正の趣旨は確かに課税庁側として十分理解できるものではありますが、果たして同族会社ってそんなに罪悪な存在なのでしょうか?
 どの中小、零細企業もそうだと思いますが、社長はじめ同族会社の役員報酬の支払いは、いつも一番後回しになっているはずです。経営は何といっても資金繰りが最優先ですから、優先順位の高いものから支払いしてゆきます。仕入代金、借入返済、従業員の給料、家賃、もろもろの経費の支払いがあって、その後で残ったお金を社長ら一族の生活費として初めて支給できるわけです。
 だから会社と役員との関係は従業員のような雇用契約ではなく委任契約であって、その委任の対価である役員報酬は、株主総会または取締役会でキッチリ決められているのだ、と建前上のことを言っても、実際のところ資金繰りに余裕のない多くの中小零細企業は、まともに自分たちの報酬などとっていないのです。毎月株主総会等で決められた額も支給されているケ?スは少なく遅配は当たり前、遅れ遅れでももらえれば恩の字、資金繰りがいつまでも楽にならず、いつまでも遅延している役員報酬はその一部しかもらえず、どんどん未払報酬が積み上がっていく、こうした会社が如何に多いことか。、  
 結局会社を清算するまでもらえず、挙句の果てに放棄やむなしといったケ?スが多いのではないでしょうか。それでも資金繰りをヤリクリしていかなければ会社が存続できない。無い袖は振れないのです。誰だって自分たちで決めた報酬は満額もらいたいでしょう。
 ちなみに源泉所得税は決められた報酬全額に対して当然課税されますので、報酬を全額もらえない場合には、もらってもいない報酬に対して源泉所得税を支払っていることになります。ですから挙句の果てに未収の報酬を放棄してしまったら、源泉所得税は結果的に払いすぎだったということになります。まさに踏んだり蹴ったりです。
 でも国税庁の方はこうおっしゃるでしょう。そんなもらえない程高い役員報酬を設定した自分たちが悪いのでしょう、支払える範囲での報酬にしておけば何の問題も生じないのに、と。
 確かにそのきらいはあります。何故なら収支ベースよりも損益ベースで役員報酬の額を取り決めることが多いからです。そこには法人税の税率は高い、だから法人税は支払いたくない、だから役員報酬を目一杯高めに設定して利益を出さないようにしよう。こうして高めの役員報酬を設定した挙句結局払いきれずに終わってしまう会社も多くあります。
 それでも源泉所得税はその高めに設定した役員報酬に対して課税されているのです。長年経営していて大きな売り上げが出る時とか、景気が良い時には、勿論利益が出て法人税も払いますが累積した未払報酬も一掃されるでしょう。 とにかく経営者は資金繰りが一番大事、会社が存続することが一番大事、うまく経営が軌道に乗ることによって初めて自分達の報酬をまともにもらうことができる。確かに法人税を極力支払わないようにしているきらいはありますが、これも経営の一環、支出を極力抑えるためと理解することはできないのでしょうか。
どうも感情論でお涙頂戴の口調になってしまいましたが、まず中小零細企業の存続ありきです。国税庁にとっては税収確保が第一でしょうが、中小零細企業が元気で存続していただかなければ、国が立ち行かなくなります。