事務所通信
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税制改正について考える その5 [税制改正についての私見]

2008-05-03

 前回はまたまた興奮した記事になってしまいました。また冷静な気持ちでコメントします。
 国税庁が前記2つの同族会社役員報酬の根本的改正を行った経緯には、企業が同族色を薄め、もっとオープンな内部牽制の働く組織に生まれ変わって欲しいというメッセ?ジが込められていると思いますし、またそれがあるべき方向ではあると思います。
 これから我々税理士の役割も、節税重視の姿勢から企業が安定的に成長、発展してゆくのをもっと積極的にお手伝いしてゆく姿勢への転換が求められています。
 税金も企業にとって大きなコストですが、毎期安定的に利益を計上し、収支を安定させ、株主には適正な配当を支払い、役員報酬もキチンともらい、法人税もキチンと納める、これが企業としての理想でしょう。しかし先にも触れましたが、中小零細企業が何も好き好んで赤字決算を続けているのではないのです。資金繰りに窮しているから、税金を支払う余裕がない。
 国税庁から見れば赤字決算とはいっても、役員報酬の未払い及び社長からの借入金が累積しただけの作られた赤字のうえでの決算ではないか、と眉をひそめているのでしょうが、それでも自分が働いた労働の対価がまともにもらえない、或いは一旦報酬をもらえても再度会社にバックするのはつらいですよ。
 ですから、今回の法律で短兵急に結果を求める?つまり期首に社長の向こう一年の報酬を決めてキチンと支給しなさい、また会社の株式を社員に譲渡したり一族以外の人を株主にしたり、一族以外の人にも経営陣に参画してもらいなさい、とにかく社長のワンマン色を薄め内部牽制の働く組織にして下さい?、そしてそうならなかった企業に対していわばペナルティのような形で法人税の負担を求めるのではなく、もっとゆるやかに誘導していく方法はないのでしょうか。
 私が思うに法人税と所得税の税率構造の違いも赤字決算が減らない一つの要因になっていると思います。法人税率は2段階の課税、法人事業税、都県民税、市町村民税を加味しても大体3段階課税です。それに対して個人所得税は6段階課税、個人住民税は一律10%課税そして事業税は一律5%です。ただ問題は最低税率です。個人は所得税5%住民税10%の計15%から始まる(個人事業税は年間290万円以下はかかりません)のに対して、法人税率は地方税合わせて約30%となります。一方最高税率は個人が所得税40%住民税10%、さらに個人事業税が5%かかるので実質税率計52.5%(個人事業税は経費になるために単純に足し算して55%にはなりません)に対し法人税は地方税合計で約46%です。
 お分かりですか。最高税率はむしろ法人税の方が低いのですが、最低税率は大幅に法人税率の方が高い。
この差こそが赤字決算を誘発する最大の原因ではないか、つまり-法人税の方がは高いから、高めの役員報酬を計上しよう(その結果は払いきれないことが多いのですが)そのようにさせている最大の原因だと私は思うのです。
 ですから私の考えでは、懲罰的な法律を作り無理をして理想像に現実を近付けようとするのではなく、こうした両税法間の不備を埋め、役員報酬を高めに設定し赤字決算にし法人税をゼロにしても、その一方で赤字にした分だけ個人の所得税等で課税すれば全く一緒つまりお相子になってしまう、そういう税率構造にすれば赤字決算を組む理由、メリットがなくなります。
 そういうやり方の方がよっぽど実効性があるのではないか、と思うのですが如何でしょうか。
何度も言いますが、赤字法人が依然として60%を超える現状はいくら景気の伸び悩みが続くとは言っても確かに異常です。しかし中小零細企業の経営者も何とか利益を出したい、黒字決算にしたいのです。懲罰的な法律で追い込むのではなく、収支のバランスをうまくとり、安定的に利益を出しその結果としてキチンと法人税が支払えるような体質にうまく誘導してゆく。
 税法は利益の結果としての税金徴収ですからリードするということは難しいかもしれませんが、ゆるやかに変革を促すそういう、中小零細企業の経営者にとってやさしい税法であって欲しいと願っています。そしてそうなるためにはもっと現場の声を知っていただきたいです。