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税制改正について考える その6 [税制改正についての私見]

2008-05-12

 5月に入り、部活や趣味の話しなど柔らかい話しが続きましたので、この辺でまた税法についての私見を述べたいと思います。
 平成20年度における税制改正の目玉は何と言っても、事業承継税制でしょう。
私もまだ詳細については情報は得ていませんが、概略についてはご存知の方も多いと思います。
 一言で言えば、非上場企業の株式について、相続等により取得した農地の納税猶予制度の仕組みを取り入れ、一定の条件のもと条件に合致した事業承継の場合には、実質的に株式の評価の80%相当額に対応する相続税額が免除される、というものです。
 この法律は条件が厳しすぎるきらいがあり改善の余地はあるとは思いますが、久々に十分評価できる今の時代に即応した、良い法律だと私は思います。
 相続税は大変公平性を保つのが難しい法律だと私はつねづね思っています.
何故ならば世の中は動いている,しかも目まぐるしく.会社も個人の財産も株価も為替相場も何もかも.一瞬先は闇,との喩えの通り,例えば会社であれば今日はよくても明日は存続しているかどうか分からない,土地でいえば今から15?6年前は土地投機バブルの全盛期で日本全体の土地評価総額がアメリカのそれを上回り,ジャパンアズナンバ?ワンと呼ばれたが,今は土地神話も崩壊し,特に地方の土地の需要が大幅に下がった結果,地価の下げ止まりがとまらない.
 為替相場もこのところ原油高,アメリカ発サブプライムロ?ンの焦げ付きの問題が全世界に波及し円高ドル安がとまらず,日本経済にも大打撃を与えている.
 かように今の社会はこの先何が起こるか分からないのである.
しかし,相続税は時点課税である.つまり亡くなった方の,亡くなった時点での各遺産をその時点での評価に基づき集計して,相続税を計算することとなっている.
 遺産のうち現在一番安定しているのが現金及び預貯金である.最近原油高の影響を受け,諸物価が値上がりだしたので,おそらく消費者物価指数も久々にかなり上昇すると思われるが,日本経済はこの10年以上物価は非常に安定しており,インフレとは無縁であったので,現金及び預貯金の実質価値が目減りすることはなかった.よって現金及び預貯金を相続時点で評価しても,それらの財産を相続し名義変更し実質的に各相続人が自由に管理処分する段階になっても,殆ど価値が変わらないであろう.
 このような資産については相続時点での評価について誰も異論を挟む余地がないであろう.
 それと対極にあるものが株式特に非上場会社の株式の評価である.
上場会社でも確かに突然潰れる会社はいくらでもあった.しかしそ非上場会社の比ではない.
 会社は生き物である.人間の体調が日々,というより一刻一刻と変化しているように会社特に非上場会社の経営内容は目まぐるしく変化しているのである.
 特に多くの非上場会社は,経営者の経営能力が会社の存亡,繁栄の最大の鍵を握っていると言っても過言ではない.もっと分かり易く言えばある会社の業績が良く,内部留保を十分にしている優良企業であったとしても,それは現在の経営者の資質に依存する部分が高く,逆にその経営者でなければ現在の業績を維持,発展させることは殆ど不可能ということである.
 生き馬の目を抜く,そんな怖さを秘めている油断ならない現代社会にあって,経営者の資質がますます問われている会社の株式の評価を,そもそも相続という一定の時点において切り取った,瞬間風速的なその時点での資産の評価によるとすることは,相続税という法律の性格上仕方がないにしても,大変危険である.
 何故って明日には資産そのものが変動しているから,しかも中小零細企業は劇的に.
非上場会社の株式がいかに内部留保があり,相続時点で高い評価額になっていたとしても,それはその時点でのこと.会社は生きており業績は刻々と変化している.相続税はどうしても静態論的な考え方,つまりある時点を切り取ってその時点での評価,ということは相続時点で会社が解散するとした場合の評価をせざるを得ない.
 しかしその一方で業績は刻々と変化している.これでは公正な課税を望むべくもない.
だから私はつねづね非上場株式の評価,特に同族株主グル?プの株式の評価について,会社の業績により計算した純資産価額と,上場会社との業績の比較により評価した類似業種比準価額との折衷により公正さを追求していても,どうしても無理があると思っていました.
 一番引っかかっていたのが,非上場会社特に中小零細企業における一身専属的な要素をどう評価に織り込むか,といったことでした.上記の評価方式は十分に考えられ錬られたものであるにせよ,数字に表れてた表面的な数字での評価であり,水面下にあるそれぞれの会社の個性特に経営者の資質という属人的な要素を一切反映させていなかったからです.
 確かに評価については割り切りが必要です.上記の評価方式はかなり細かく規定されており,これはこれで完成されたものと思っています.そもそも属人的な要素は測定不可能ですので誰が法律を作ってもこれを正確に測定することはできないと思います.
 しかしその一方で高い株価そして高い相続税に阻まれて,思うように事業承継が進まない中小零細企業が多いことが社会問題になっていました..
 そこで評価は評価で上記方式によって評価する一方で,相続人が先代社長より経営を引継ぎ5年以上,先代と変わらない規模で会社を維持できたのならそのご褒美として非上場株式の評価額の80%に相当する相続税を5年間猶予してあげましょう,そして最後には納税を免除してあげましょう,という今回の改正はまさに属人的な要素をうまく取り入れたと言う点で,中小零細企業の実態にある程度合致した素晴らしい法律と言えるのではないでしょうか.
 相続における農地の納税猶予制度も,農業相続,営農,永農を条件に大部分の相続税を猶予そして最後は免除するものです.
 私は前回触れた同族会社の役員報酬を狙い撃ちにした2つの法人税のように懲罰的な法律で人の行動を縛るのではなく,この事業承継改正の法律のように会社を継続させるべくうまく誘導してゆくような温かい法律を作って欲しいと思います.
 両者の間には大きな差があります.一言で言えば,北風と太陽です.
性悪説に基づき人を罰することによって誘導するやり方と,性善説に基づき国の立法政策に合致した行動をとったらご褒美をあげるやり方.どちらがより有効でしょうか.
 後者の方には温かさがあります.素っ気ない法律でもその精神に温もりが感じられます.
法律を作られる方,どうか温もりの感じられる法律を数多く作って下さい.そして私たち国民をうまく国の政策に合致する行動をとるよううまく誘導して下さい.